田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

簑原敬、宮台真司 著『まちづくりの哲学』より。給食から見えてくる田舎教師と都会教師の違い。

 僕は自分の三人の子たちや近所の子たちにいつも二つのことを言います。「細かいヤツは人を不幸にする」と「パパの言うことはたいてい間違っている」ということ。こうしたメッセージに幼少時から晒されれば、過剰な〈安心・安全・便利・快適〉を良かれと思考するクレージー・クレーマーには育たないでしょう。その意味で、幼児教育がとても重要になりますね。

(簑原敬、宮台真司『まちづくりの哲学』ミネルヴァ書房、2016

 

 おはようございます。1学期の頃はあったのに、夏休みになると無くなってしまうものがたくさんあります。《子供の頃はあったのに、大人になると無くなってしまうものがたくさんある》という味わい深い文章ではじまるのは辻仁成さんの『ミラクル』ですが、それと同じです。授業がなくなり、子供の声がなくなり、そして教員の過労もなくなります。無くなってよいものもあれば、無くなってほしくないものもあります。無くなってよいものの筆頭は残業でしょうか。過労や睡眠不足もそこに含まれます。逆に無くなってほしくないものはといえば、例えば給食。そんなわけで、今日は田舎と都会の給食の話です。

 

 最初は田舎の給食から。

 

 子どもたちの机の上には給食ではなく袋に入った菓子パンが2つ。飲み物もあったような、なかったような。

 共同調理場方式(給食センター方式)だった田舎の小学校にて、そんな日を2回体験しました。来るはずの給食が来ない(!)という事態に、学級担任一同「え?」或いは「また?」となっていましたが、結局2回とも校長先生が近くのパン工場まで車をかっ飛ばし、「全校児童+教職員」分のパンを確保することによって、もちろんアレルギー対応の児童についてはしっかりとケアしつつ、まるく(?)収まりました。都会の小学校ではあり得ない話です。都会だったら新聞沙汰になりかねません。

 

 新聞沙汰?

 

 子どもたちはといえば、大人の焦りどこ吹く風といった様子で、思いがけず訪れた非日常に目を輝かせながら、お祭りにでも来たかのようにワイワイと菓子パンを口にしていました。記憶に留まりやすいのは、「何を食べたか」よりも「誰とどんな状況で食べたか」です。保護者からの苦情めいたリアクションもゼロで、思い出に残った「めでたしめでたし」でした。

 

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郷土料理(はらこ飯&つるむらさき)をモチーフにした田舎の給食

 

 一方、自校方式だった都会の小学校では、給食のおかずを一品まるごと配り忘れた若い先生が、放課後に全ての家庭を訪問して事情を説明、そして謝罪するということがありました。田舎の小学校ではあり得ない話です。田舎だったら、 

 

 先生、飯食ってくか?

 

 そんな牧歌的な展開が予想されるので、管理職も保護者も同僚も、誰も「謝罪のための家庭訪問」なんていう細かいことを求めたりしません。翌日の授業の準備もままならない若い先生が、40人近くいる子どもの家庭を一軒一軒訪ね、「夜分に申し訳ありません。給食のおかずを一品配り忘れてしまいました」なんて頭を下げて回らなければいけないのは、おかしい。話題の映画『天気の子』の主人公・帆高の口癖をもじっていえばこうなります。

 

 都会コワッ。

 

 魅力もあるんですけどね。リッチな自治体であれば、単純に美味しいし、メニューも豊富だし、食器は陶器だし、Haagen-Dazsもでるし。簑原敬さんと宮台真司さんが『まちづくりの哲学』で話題としている代官山のような街だったら「さらなり」でしょうか。いずれにせよ、宮台さんが言っているように、

 

 細かいヤツは人を不幸にする。

 

 間違いありません。

 

 

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